Home / ファンタジー / 聖衣の召喚魔法剣士 / 5   災害のエクリア

Share

5   災害のエクリア

Author: KAZUDONA
last update Last Updated: 2025-11-22 15:38:51

「お、マジでいるじゃんー! しっかしすごく可愛らしい格好させられたもんだな。似合ってるぜ、ぷくくっ!」

 笑いながら入室して来たエクリアはそのままカリナの向かいにあるソファー、カシューの隣に腰掛けた。

「うるさいな。ってお前もいたんだな、ネカマのエクリア」

「まあな、でも俺が戻って来たのは30年前くらいかな。カシュー一人でてんてこ舞いだったからなぁ、今は国の復興やら各地に湧く魔物討伐とかしてるんだよ」

 この一人称「俺」の女性は旧知の仲であると共に、初期から女性キャラでエンジョイしている生粋のネカマである。今の状況は彼、いや彼女にとっては願ったりかなったりの状況であるかもしれない。ずっと女性姿で過ごせるのだから。

「世界が変わっちまったから俺はずっと女のままだ。まあ部下の前ではちゃんと女言葉使ってるから安心しな」

「心配なんかしてないぞ。喜んでロールプレイしてるんだろ?」

 にししと笑いながらテーブルに置いてあったポットからカップに紅茶を注ぐ。一飲みしてから、また喋り続ける。

「で、今まで何してたんだよ? こっちは色々大変だったってのに」

「ついさっきログインしたらこの状況だったんだってさ。さっき聞いたよー」

 カシューが口を挟む。彼にとっても友人達3人と過ごす時間は和やかなもので心地良い。

「で、幹部はエクリアだけなのか? それに各地に魔物がそんなに大量に湧くなんてそうそうなかっただろ? それをエクリアが討伐してるのか……、毎回地形が変わって大変そうだな」

 エクリアの戦いは特に派手な魔法を連発する。そのせいで周囲は毎回地面が抉られ、クレーターが出来上がる。そのせいで付けられた二つ名は「災害」。自然環境を崩壊させるその戦いぶりは周囲の仲間も巻き込みそうになる程のものだった。

「しかし、サブキャラでインしたところに巻き込まれるとはついてねーな。女だと色々大変だぞー」

「大変って、まさか……。これが現実ならゲームでは起きなかった体の生理現象が……?」

 カリナは嫌な汗が背筋を伝うのを感じた。そこまでの覚悟はさすがにできていない。

「にしし、ご名答。アレは大変だぞー。痛いのなんのって、なあ?」

 自分のお腹を押さえながらカシューの方を見る。

「僕に振らないでくれないかな? わかるわけないでしょ。でもエクリアが月一で使い物にならなくなるのは知ってるけどね」

「マジかよ……、そんな生理現象があるってことはまさか出産もできてしまうってことじゃないのか? うへー、想像するだけで怖くなる」

 現実世界ならば当然の摂理である。だが、自分の身の上にそれが起こるとなると恐ろしくて仕方がない。

「まあまあ、そういうことしなければ問題ないって。でも月一は覚悟しろよ。想像を絶するぞー。まあ対人で悪い奴に負けて、くっ殺展開になったら後は自己責任だな、ははは」

「そういう輩は容赦なく燃えカスにしてやるから大丈夫だよ。でもとりあえず状態異常だけは気を付けないとだな」

 自分の今の姿が女性であるのだと思い知らされた。今後はより一層注意しなければいけない。

「そうだぞー、こんなに可愛いんだからなー!」

 近づいて来たエクリアにもみくちゃにされる。匂いを嗅がれて全身を撫で回される。

「やっぱ可愛いなー、可愛いってことはめちゃくちゃに可愛がっても良いってことだぜー」

「やめろバカー!」

 何とかエクリアの拘束から抜け出し、息も絶え絶えにソファーに沈み込む。そして自分とカシューの分の紅茶をカップに注ぐと、ぐいっと飲んだ。

「で、他の連中はここには帰って来ていないのか?」

 それを聞いてカシューとエクリアは渋い顔をして向き合った。

「悪魔の大軍が攻めて来たときに、幹部達はみんな迎撃してくれたんだけどね、その後皆行方不明さ。今は彼らの捜索も任務の内だね。リストの名前は光っているから生存はしてるはずだよ」

「災害のエクリア、魔法使いがいるということは、残りは……」

 フレンドリストを展開しながらログイン状態であるかつての同僚達を検索していると、カシューが口を開いた。

「いないのは格闘家のグラザ、相克使いのカグラに弓術士のエヴリーヌ、僧侶のサティア、そして聖騎士のカーズだよ。まあカリナになって戻って来たからそれは良しとしよう、召喚士は今やほとんどいないから貴重な戦力になるし。ま、今他国から攻められても大変なんだけどね。初期五大国の事件以来、各地では様子見が続いてる。PvPでも下手したら死ぬかもしれないからね。他国に攻め込んで悪戯に戦力を削る訳にはいかないんだろうね」

「なるほど、俺とエクリア以外はみんな行方不明か。どうするんだよ? 次に悪魔の大軍が来たらエデンは崩壊するかもしれないぞ」

 今名前が挙がったのはVR時代にカシューの下で建国に関わったランカー達である。彼らがいないのは戦力的にかなりの痛手である。

「で、俺も防衛の為に動けないって訳だ。そこに身動きが取りやすそうな奴が帰って来たと」

 エクリアがニヤニヤと笑う。

「ま、まさか……」

 その瞬間カシューが立ち上がり、キリリとした表情となって言葉を紡ぐ。

「召喚魔法剣士カリナ、エデン国王直々の命を伝える。行方不明の特記戦力を探し出して欲しい。それと平原にも悪魔が出現したのは何かの前振りかもしれない。悪魔の動向を探って来るのだ!」

 ふぅと一息を吐き、これはカシューの王としてのロールプレイだと理解したカリナも立ち上がり、手を胸に当てて一礼をして答えた。

「承知した。我が敬愛なるカシュー王よ」

 ◆◆◆

 旅立ちの為のアイテムや資金を受け取り、執務室を後にした。ソロでお金はたくさん稼いで来ていたが、これはカシューなりの気遣いであろう。

 ドアの前のアステリオンと不機嫌そうなクラウスに一礼をしてから自室へと戻る。しかし、捜索するとしても手がかりがまるでない。さらにVAOのオープンワールドは隅々まで旅をしたとは言え、果てしなく広大である。その中から数人の者達を探し出すのは困難を極めるだろう。

 しかし、この新しい世界にカリナの心は踊っていた。まだ見ぬ新しいVAOが現実となって眼前に広がっている。それはカリナの冒険心を駆り立てるのには十分であった。ワクワクが止まらない。

 その前にやはり本当のことを話さなければならないと、カリナは決心した。100年もの間本当の主を待っている彼女に、今の自分のことを伝えなくてはいけないと。そうしなければ、気がかりを残したまま旅立たなくてはならなくなる。

 自室に向かいながら、どう切り出そうかと考えを巡らせたが、正直に伝えるしかないという結論に辿り着く。

 そうして意を決して自室の扉をキーで開けた。帰りを待っていてくれたルナフレアは、ドアのところまで急いで駆けて来て、笑顔でカリナを出迎えた。

「お帰りなさいませ、カリナ様。陛下とのお話はどうでしたか?」

「ああ、うん、昔に会ったときと同じように気さくな人だったよ。それから行方不明の配下を探す使命を受けた。だから明日からまた旅に出ることになるかもしれない」

「そうですか……。貴女も行ってしまうのですね。折角お仕えできると思っていたのに、残念です」

 寂しそうな顔をするルナフレア。その寂しさを与えてしまっているのが自分であると考えると、カリナは胸が苦しくなった。伝えるしかない。ずっと待ってくれていた彼女に。

 そう思い、カリナは口を開いた。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 聖衣の召喚魔法剣士   21  ミッション終了

     疲労で仰向けに倒れ込んだカリナは、まだ明るい空を見上げていた。VAOがゲームのときは、その中で身体を動かしても、実際には現実の身体を動かしてはいない。そのため、長時間のプレイで精神的に疲れることがあっても肉体に疲労感を感じることなどなかった。しかし、今のこの世界は現実世界と何ら変わりない。身体に感じる疲労感がそのことを物語っていた。「長時間の戦闘には気を付けないといけないな……」 攻撃を躱す時に擦り減る神経。接触した際に響く衝撃。敵を斬り裂き、殴り飛ばすときに感じるリアルな感触。どれもが僅かだが、少しずつ疲労を蓄積させる。ゲーム内でのステータスは見えないが、これまでに鍛え抜いたものがあるだけに、現実世界で急激な運動をしたとき程の負担がある訳ではないが、ある程度の自分の限界は見定めておくべきだと思うのだった。 深呼吸をしてから、ゆっくりと立ち上がる。身に纏っていた聖衣が解除され、ペガサスの姿に戻る。同時に二対の黄金の剣に姿を変えていた蟹のプレセペも元の姿に戻った。「ご苦労だったなお前達、また力を貸してくれ」 ペガサスの頭と巨大な蟹の背中を撫でる。「所詮は伯爵レベルよな。我の力があれば主も余裕であっただろう。では次の機会を楽しみにしているぞ」 大口を叩く巨蟹のプレセペ。二体の召喚獣は光の粒子に包まれて消えていった。その光が空へ向けて霧散していくのを見守っていると、魔物の討伐を終えたワルキューレの姉妹達が、カリナの下へ集結して来た。「主様、討伐完了致しました。目に着いた怪我人も我々が治療しておきました。燃えていた建物も、ミストの水魔法で消火済みです」 その場に跪いたヒルダが報告する。「そうか、よくやってくれた。感謝する。ありがとう。お前達の御陰で被害は少なくて済んだみたいだな」「私達を即座に現場に送り込んだ主様の判断の御陰ですよ。私達は任務を熟したに過ぎません」 黒髪のロングヘアが美しいカーラが答える。「それに私達にはそれぞれ得意な属性があります。それを上手く分担したまでですよ」 金髪のエイルが胸を張った。 ワルキューレまたはヴァルキュリャ、ヴァルキリー「戦死者を選ぶもの」の意は、北欧神話において、戦場で生きる者と死ぬ者を定める女性、及びその軍団のことである。 北欧神話において、ワルキューレは多数存在する。みな女性

  • 聖衣の召喚魔法剣士   20  襲撃

     悪魔が炎によって燃え尽きたのを見届けると、カリナはカシューに連絡を取った。「聞こえていたか、カシュー?」「うん、どうやら色々と考察する余地がありそうだね」 イヤホンの向こうから、真剣なカシューの声が聞こえる。「先ずは奴の言っていたことが気にかかる。近くの街はチェスターだ。情報通りならそこに悪魔が向かっていることになる。私は急いで戻る。そっちからも援軍を出してくれないか?」「わかった、戦車部隊に戦力を乗せて全速力で向かわせるよ。それなりの距離だから間に合うか微妙だけどね」「頼んだ。とりあえず一旦切るぞ」「了解、また何かあればよろしく」 カシューの返答を聞いてから、左耳のイヤホンに注いでいた魔力を切った。急いで街に戻らなければならない。意識を切り替えて、真眼と魔眼の効果を解除した。聖衣が身体から外れて、黄金の獅子のカイザーの姿へと戻る。「お見事でした、我が主よ」「いや、お前の力がなければ危なかったよ。ありがとう、また呼んだときは頼んだぞ。ゆっくり休んでくれ」 光の粒子になってカイザーは消えていった。そして湖の中から自動回復した黒騎士達が戻って来た。ヤコフの両親を運ぶのはこの騎士達に任せるとするかと考えていたとき、背後からシルバーウイングの面々が押しかけて来た。「やったな、まさか本当に悪魔を斃してしまうとは」「ああ、すげーぜ! こっちまで興奮してきた」 アベルとロックは単独で悪魔を撃破した少女に称賛の言葉を贈る。「ええ、召喚術ってすごいのね。しかもあの召喚獣を身に纏う戦い方なんて初めて目にしたわ」「しかも結局格闘術だけで押し切ってしまいましたね。魔法剣を使うまでもなかったということでしょうか?」 エリアとセリナも興奮が抑えきれないのか、矢継ぎ早に話しかけて来る。「あれは聖衣という召喚獣の力をその身に纏う鉄壁の鎧だ。あらゆる能力が著しく向上する私の奥の手だよ。召喚獣との信頼関係がないと身に纏うことはできないけどな」 剣を使わなかったのは、格闘術だけでどこまでやれるかという実験でもあった。生身の拳では致命傷は与えられなかったが、それなりに戦えることがわかっただけでも、カリナにとっては大きな収穫になった。「そうだ、ヤコフの両親の容態はどうなってる?」「出来る限りの治療はしたから一命は取り留めたわ。でもまだ意識

  • 聖衣の召喚魔法剣士   19  VS悪魔侯爵

     カリナの格闘術の一撃で怯んだ悪魔侯爵イペス・ヘッジナだったが、すぐさま体勢を立て直し、身体から黒い炎を撒き散らしながらカリナへと突進して来た。「おのれ、小娘がっ!」 振るった大鎌が空を斬る。カリナは大振りな悪魔の攻撃に意識を集中させ、瞬歩で即座に距離を取る。そこに生まれた一瞬の隙の間に懐に飛び込み、右拳での一撃をどてっ腹の中心部に撃ち込んだ。格闘術、烈衝拳。土属性の魔力を纏った、まるで鋼鉄の様に硬化された拳の一撃。悪魔の赤黒い鎧に僅かに亀裂が走る。 カリナは召喚術が実装されるまでは基本的に剣術と格闘術を中心に熟練度を上げていた。そこへ剣技の威力を上げるために魔法を習得した。魔法剣の習得は魔力の底上げとなった。それの副次効果で、魔力を帯びた特殊な格闘術の技能も全般的に威力を向上させることに成功したのである。「がはっ、何だ……? この威力は?!」「だから言っただろう。小突いただけだとな」「小癪なっ!」 力任せの大振りの鎌を瞬歩を使用して紙一重で躱す。そのまま一気に巨体の股の下を潜り抜けて後ろを取ると、背後から風の魔力を纏った左脚での回し蹴りを見舞った。格闘術、烈風脚。悪魔の背にある翼の付け根に繰り出した蹴りが撃ち込まれる。「がああっ!」 竜巻の如き強烈な蹴りに悪魔は仰け反るが、すぐさま持ち直し、黒炎を撒き散らしながら突進して来る。 イペスの攻撃は大振りで読み易いということを既にカリナは見抜いている。しかし、それでもその巨体から繰り出される攻撃は異常な破壊力を秘めており、一撃でもまともに喰らえばかなりのダメージを負うだろう。最悪骨の数本は持っていかれる。一撃も貰うわけにはいかない。スレスレで回避する度に神経が擦り減っていく。「があああっ!」 上段から大鎌を振り被った渾身の一撃を敢えて前方に踏み込み、懐に入るようにして躱す。そのまま空振りをした硬直状態の悪魔の身体を駆け上がり、眼前で左拳を振り被る。「格闘術、紅蓮爆炎拳!」 ドゴオオオオオオッ!!! 炎の魔力を纏った高熱の拳が炸裂すると同時に頭全体を巻き込んで爆発した。衝撃で痺れる拳の代わりに、悪魔は後方へと後退る。「ぐはあああああっ!」 それでもまだこの悪魔侯爵は倒れない。やはり高位の悪魔だけあって相当に打たれ強く頑強であ

  • 聖衣の召喚魔法剣士   18  地底湖にて

    「あ、戻って来た。カリナちゃーん!」 死者の間の祭壇から帰還して来るカリナを見つけたエリアは、カリナの方へ向かって手を振った。「もう用事は済んだのか?」 ロックは口に何かを入れた状態で、手にはサンドイッチが乗せられている。「ああ、一応な。ってなんだ、食事中だったのか」 持ち込んだ食材をセリナとアベルが料理している。それをヤコフを含めた他の面々が食べているところだった。エリアもアイテムボックスから次の食材を取り出しているところだった。NPCであっても冒険者はアイテムボックスを使うことができるのかということをカリナは初めて知った。 確かにこの迷宮に挑むとき、彼らは大した荷物を持っていなかった。それはこういうことだったのかとカリナは得心した。「食事は簡単なものだが、一応拘ってやっているんだ。冒険中には腹が空くこともある。食べるってのは活力を回復させるのには一番だからな」「そういうこと。まあそんなに手の込んだ料理は作れないけどね」 アベルとセリナは起こした火の上で薄い肉や野菜を焼いて、それをパンに挟んでいる。最初にロックが手にしていたのはこれだったのかとカリナは知った。そう言えば、もう迷宮に入ってそれなりの時間が経つ。昼を回っている頃だ。カリナは自分も多少小腹が空いていることに気付かされた。「ほら、カリナ嬢ちゃんも食べな。飲み物はお茶を沸かしてある」「そうだな、お前達が食べているのを見ていたら小腹が空いて来た。じゃあ頂こうかな」 アベルからサンドイッチとお茶を受け取り、地べたに座り込む。簡単な食事だが、活力が湧いて来るのを感じる。現実の冒険であれば当然のことだが、途中で補給を行う必要がある。VAOがゲームのときにはなかった現実的な問題である。これも世界が変わった影響で、今後もこういった発見があると思うと、カリナは内心ワクワク感が湧き上がって来るのを感じた。「ヤコフ、ちゃんと食べているか?」「うん、さっき貰ったから食べたよ。美味しかった」「そうか、良かったな」 魔物をヒルダが一掃したので、辺りにはもう何の気配もない。時間が経てばリポップすることになるのだろうが、暫くは問題ないだろう。渡されたカップに注がれたお茶を啜りながらカリナはそう思った。 食事を終え、少し休憩した後、一同は地底湖のある階層に進むことに決めた。普段は何も出現しない、鍾乳洞

  • 聖衣の召喚魔法剣士   17  死者の間

     迷宮の扉を開けて中へと入ると、地下へと続く広い通路に階段がある。そこを降って行くと迷路の様に広がる巨大な階層へと到達した。 VAOの頃からこの迷宮は地下7層まである。その下には地底湖が広がっていて調度良い休憩場所にもなっていた。そして7層にある死者の間には巨大な鏡があり、そこでは死者に会えるという設定があった。ゲームの頃にはただの設定だったが、今や現実となったこの世界では、本当に死者に会えるのかも知れない。カリナの目的の一つは、その鏡の前で過去に死に別れたある女性との再会が可能かどうかを確かめることだった。 一行が迷宮を進んで行くと、前方から魔物の気配が近づいて来た。「おいでなすったぜ、死者の迷宮の定番。グールにスケルトンだ」 ロックがそう言って二刀のナイフを抜く。他のメンバーも戦闘の準備に入り、襲い来る魔物達をなぎ倒していくのだが、カリナは後方でヤコフの側に白騎士を待機させて眺めていた。「張り切っているなあ。このままでは私の出番はないかもしれない」「カリナお姉ちゃんも戦いに参加したいの?」「うーん、あのぐじゅぐじゅしたアンデッドに関わりたくはないのが本音かな……。できれば触りたくない、臭い」 現実となった世界では、この死者の迷宮内部の腐臭は酷いものだった。鼻がひん曲がりそうである。アンデッドが湧き続ける限り、この悪臭が続くのかと思うと、気が遠くなりそうになった。それにこのまま素直に正攻法で攻略していては時間がかなりかかりそうである。ヤコフの両親の安否も気になるため、カリナは一気にこの迷宮の魔物を掃除することに決めた。 その場で両手を広げ、魔法陣を展開させて詠唱の祝詞を唱える。「遥かヴァルハラへと繋がる道を護る者よ、炎を纏う戦乙女よ、その姿を現せ!」 重ねた魔法陣が地面へと移動し、そこから白いロングスカートに全身鎧を身に纏った戦乙女、ワルキューレが姿を現した。「お久し振りでございます、主様。ワルキューレ、ヒルダ。ここに参上致しました」 戦闘を終えて戻って来たシルバーウイングの面々も初めて見る召喚魔法とその召喚体の美しさに目を奪われている。「ああ、久し振りだな。どうやら長い時間お前達を放置してしまったみたいだ。申し訳ない。いつの間にか時が流れていたみたいでな」「いえ、こうしてまた呼んで頂き光栄でございます。さて、此度の御用は如何なもの

  • 聖衣の召喚魔法剣士   16  死者の迷宮へ

     宿の女将さんに教えてもらった防具屋に着く。まだそれなりに早い時間帯だが、その店は既に営業を開始していた。入り口の扉に「OPEN」と書かれた札が掛けられている。カリナがヤコフを連れて店に入ると、店の店主が声を掛けて来た。「おや、いらっしゃい。こいつは可愛らしいお客さんだ。もしかして冒険者なのかい?」 店主はどうやらドワーフのようで、恰幅の良い体格、言い換えればずんぐりとした小柄の体格に顔には立派な髭を蓄えていた。手先が器用な種族で鍛冶や生産などにその能力を発揮する。ゲームプレイヤーなら誰もがある程度は知っている知識である。 その店主は、まだ幼さが残る少女が小さな子供を連れて来たので驚いたのだろう。「おはよう。店主、済まないがこの子に合う防具を見繕ってくれないだろうか?」「まあ、客の要望だから応えさせてもらうが……。こんな子供を冒険にでも連れ出すつもりなのかい?」「少々訳ありでな。この子のことは私が守る約束だが、万が一に備えてね。どうかな?」「ふむ、客の事情には深入りはせん主義だ。子供でも着れる軽い装備を準備しよう」「話が早くて助かるよ」 店主はヤコフの身体をごつい手で掴み、素早く寸法を測り終えると、身体に合うサイズの軽いレザーアーマーを着せてくれた。頭にもなめし皮で作られた頑丈な皮の帽子の様な兜を被せた。さすがドワーフだけあって、皮の製品であっても硬く、防御性能は高そうである。この装備に依存する展開が来ないことが一番だが、念には念を入れてのことである。「これでどうだ? ウチでは一番小さいサイズだが、かなり硬くなめした皮で作っているから、多少の攻撃ではびくともしないはずだ」 鎧と帽子を身に付けたヤコフが鏡の前で自分の姿を見て確かめている。「すごいね、これ。硬いのに軽いから着ていても全然苦しくないよ」「そうか、ならそれにしよう。店主、値段は幾らだろうか?」「そうだな、本当は二つ合わせて8,000セリンだが、サイズが合う人間がいなくてな。もう売れないと思っていたから5,000に負けておくよ。それでどうだ?」「わかった、それで十分だよ。ありがとう」 カリナが代金を払うと、店主から「まいどあり」という言葉が返って来た。こういう店での定番のやり取りである。「良い買い物ができた。また機会があれば寄らせてもらうよ」「おう、気を付けて行ってきな」

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status