LOGIN「お、マジでいるじゃんー! しっかしすごく可愛らしい格好させられたもんだな。似合ってるぜ、ぷくくっ!」
笑いながら入室して来たエクリアはそのままカリナの向かいにあるソファー、カシューの隣に腰掛けた。
「うるさいな。ってお前もいたんだな、ネカマのエクリア」
「まあな、でも俺が戻って来たのは30年前くらいかな。カシュー一人でてんてこ舞いだったからなぁ、今は国の復興やら各地に湧く魔物討伐とかしてるんだよ」
この一人称「俺」の女性は旧知の仲であると共に、初期から女性キャラでエンジョイしている生粋のネカマである。今の状況は彼、いや彼女にとっては願ったりかなったりの状況であるかもしれない。ずっと女性姿で過ごせるのだから。
「世界が変わっちまったから俺はずっと女のままだ。まあ部下の前ではちゃんと女言葉使ってるから安心しな」
「心配なんかしてないぞ。喜んでロールプレイしてるんだろ?」
にししと笑いながらテーブルに置いてあったポットからカップに紅茶を注ぐ。一飲みしてから、また喋り続ける。
「で、今まで何してたんだよ? こっちは色々大変だったってのに」
「ついさっきログインしたらこの状況だったんだってさ。さっき聞いたよー」
カシューが口を挟む。彼にとっても友人達3人と過ごす時間は和やかなもので心地良い。
「で、幹部はエクリアだけなのか? それに各地に魔物がそんなに大量に湧くなんてそうそうなかっただろ? それをエクリアが討伐してるのか……、毎回地形が変わって大変そうだな」
エクリアの戦いは特に派手な魔法を連発する。そのせいで周囲は毎回地面が抉られ、クレーターが出来上がる。そのせいで付けられた二つ名は「災害」。自然環境を崩壊させるその戦いぶりは周囲の仲間も巻き込みそうになる程のものだった。
「しかし、サブキャラでインしたところに巻き込まれるとはついてねーな。女だと色々大変だぞー」
「大変って、まさか……。これが現実ならゲームでは起きなかった体の生理現象が……?」
カリナは嫌な汗が背筋を伝うのを感じた。そこまでの覚悟はさすがにできていない。
「にしし、ご名答。アレは大変だぞー。痛いのなんのって、なあ?」
自分のお腹を押さえながらカシューの方を見る。
「僕に振らないでくれないかな? わかるわけないでしょ。でもエクリアが月一で使い物にならなくなるのは知ってるけどね」
「マジかよ……、そんな生理現象があるってことはまさか出産もできてしまうってことじゃないのか? うへー、想像するだけで怖くなる」
現実世界ならば当然の摂理である。だが、自分の身の上にそれが起こるとなると恐ろしくて仕方がない。
「まあまあ、そういうことしなければ問題ないって。でも月一は覚悟しろよ。想像を絶するぞー。まあ対人で悪い奴に負けて、くっ殺展開になったら後は自己責任だな、ははは」
「そういう輩は容赦なく燃えカスにしてやるから大丈夫だよ。でもとりあえず状態異常だけは気を付けないとだな」
自分の今の姿が女性であるのだと思い知らされた。今後はより一層注意しなければいけない。
「そうだぞー、こんなに可愛いんだからなー!」
近づいて来たエクリアにもみくちゃにされる。匂いを嗅がれて全身を撫で回される。
「やっぱ可愛いなー、可愛いってことはめちゃくちゃに可愛がっても良いってことだぜー」
「やめろバカー!」
何とかエクリアの拘束から抜け出し、息も絶え絶えにソファーに沈み込む。そして自分とカシューの分の紅茶をカップに注ぐと、ぐいっと飲んだ。
「で、他の連中はここには帰って来ていないのか?」
それを聞いてカシューとエクリアは渋い顔をして向き合った。
「悪魔の大軍が攻めて来たときに、幹部達はみんな迎撃してくれたんだけどね、その後皆行方不明さ。今は彼らの捜索も任務の内だね。リストの名前は光っているから生存はしてるはずだよ」
「災害のエクリア、魔法使いがいるということは、残りは……」
フレンドリストを展開しながらログイン状態であるかつての同僚達を検索していると、カシューが口を開いた。
「いないのは格闘家のグラザ、相克使いのカグラに弓術士のエヴリーヌ、僧侶のサティア、そして聖騎士のカーズだよ。まあカリナになって戻って来たからそれは良しとしよう、召喚士は今やほとんどいないから貴重な戦力になるし。ま、今他国から攻められても大変なんだけどね。初期五大国の事件以来、各地では様子見が続いてる。PvPでも下手したら死ぬかもしれないからね。他国に攻め込んで悪戯に戦力を削る訳にはいかないんだろうね」
「なるほど、俺とエクリア以外はみんな行方不明か。どうするんだよ? 次に悪魔の大軍が来たらエデンは崩壊するかもしれないぞ」
今名前が挙がったのはVR時代にカシューの下で建国に関わったランカー達である。彼らがいないのは戦力的にかなりの痛手である。
「で、俺も防衛の為に動けないって訳だ。そこに身動きが取りやすそうな奴が帰って来たと」
エクリアがニヤニヤと笑う。
「ま、まさか……」
その瞬間カシューが立ち上がり、キリリとした表情となって言葉を紡ぐ。
「召喚魔法剣士カリナ、エデン国王直々の命を伝える。行方不明の特記戦力を探し出して欲しい。それと平原にも悪魔が出現したのは何かの前振りかもしれない。悪魔の動向を探って来るのだ!」
ふぅと一息を吐き、これはカシューの王としてのロールプレイだと理解したカリナも立ち上がり、手を胸に当てて一礼をして答えた。
「承知した。我が敬愛なるカシュー王よ」
◆◆◆ 旅立ちの為のアイテムや資金を受け取り、執務室を後にした。ソロでお金はたくさん稼いで来ていたが、これはカシューなりの気遣いであろう。ドアの前のアステリオンと不機嫌そうなクラウスに一礼をしてから自室へと戻る。しかし、捜索するとしても手がかりがまるでない。さらにVAOのオープンワールドは隅々まで旅をしたとは言え、果てしなく広大である。その中から数人の者達を探し出すのは困難を極めるだろう。
しかし、この新しい世界にカリナの心は踊っていた。まだ見ぬ新しいVAOが現実となって眼前に広がっている。それはカリナの冒険心を駆り立てるのには十分であった。ワクワクが止まらない。
その前にやはり本当のことを話さなければならないと、カリナは決心した。100年もの間本当の主を待っている彼女に、今の自分のことを伝えなくてはいけないと。そうしなければ、気がかりを残したまま旅立たなくてはならなくなる。
自室に向かいながら、どう切り出そうかと考えを巡らせたが、正直に伝えるしかないという結論に辿り着く。
そうして意を決して自室の扉をキーで開けた。帰りを待っていてくれたルナフレアは、ドアのところまで急いで駆けて来て、笑顔でカリナを出迎えた。
「お帰りなさいませ、カリナ様。陛下とのお話はどうでしたか?」
「ああ、うん、昔に会ったときと同じように気さくな人だったよ。それから行方不明の配下を探す使命を受けた。だから明日からまた旅に出ることになるかもしれない」
「そうですか……。貴女も行ってしまうのですね。折角お仕えできると思っていたのに、残念です」
寂しそうな顔をするルナフレア。その寂しさを与えてしまっているのが自分であると考えると、カリナは胸が苦しくなった。伝えるしかない。ずっと待ってくれていた彼女に。
そう思い、カリナは口を開いた。
アリアの部屋を辞したカリナは、重い足取りでカグラと隊員が待つ貴賓室へと戻ってきた。 扉を開けると、そこには既に豪勢な昼食がテーブルいっぱいに並べられていた。アレキサンド名物の肉料理や、彩り豊かな野菜のテリーヌ、そして数種類の果物。カグラは優雅にフォークを動かし、隊員は口の周りをソースで汚しながら夢中で肉にかぶりついている。「おかえりなさい、カリナちゃん。どうだった?」 カグラがグラスを置き、振り返る。その茶色のミディアムヘアがふわりと揺れ、穏やかな表情の中に鋭い知性が光っていた。「こちらは一応、資料から禁忌の術などの解析が終わったわ。恐ろしい術式ばかりだったけれど……今後はこれが悪用されないように、対策を練らないとね」「ああ、お疲れ様。……悪い、私も少し食べるよ」 カリナは空いている席に座り、まだ温かいローストビーフを皿に取り分けた。一口食べ、その旨味に少しだけ心が安らぐのを感じながら、カリナは静かに口を開いた。「彼女は……間違いなく『女神』だ。この世の理の常識を遥かに超える存在だ」 その言葉に、カグラの手が止まる。「何か分かったの?」「ああ。彼女が探している人物は、私である可能性が高い。だが、この世界ではアバターという仮初めの姿が邪魔をして、魂にある目印がはっきり見えなくて、そこまで確証が持てないらしい」 カリナはナイフを握る手に力を込める。「それに……この世界から次元を斬り裂いて脱出することなど簡単だ、とも言っていた。私達が必死に生きているこの世界の理屈など、彼女にとっては取るに足らないことなんだろうな」「次元を斬り裂く……? まるでSF映画ね」「笑えない話だがな。……それと、彼女はその人探しの合間の暇潰しに、このVAOをプレイしていたPCの一人でもあるそうだ」 カリナが告げると、カグラは目を丸くし、やがてクスクスと笑い出した。「ふふっ、あはは! 神様がネトゲをするなんて、ずいぶんと俗っぽいのね。親近感が湧くような、畏れ多いような……」「全くだな。だが、その力は本物だった」 カリナは表情を引き締める。ここからが、アリアから聞いた最も重要な情報だ。この世界が虚構であり、悪魔以上のとんでもない存在が創った実験場であること。それをカグラに伝えようと、口を開きかけた瞬間――。「――っ……ぐぅっ……!」 ドクン
「いらっしゃい、カリナさん。まあ、立ったままではなんですし、掛けたらどうですか?」 アリアは優雅な仕草で、向かいの席を手で示した。テーブルの上には、既に湯気を立てる二つのティーカップ。最高級の茶葉の香りが、部屋の中に満ちている。まるで、カリナがこのタイミングで訪ねてくることを、最初から知っていたかのような準備の良さだった。 カリナは一瞬躊躇したが、意を決して椅子を引き、アリアと対面する形で腰を下ろした。「いただきます」 勧められるままに紅茶を一口含む。渋みがなく、花のような芳醇な香りが鼻腔を抜ける。それは、毒など入っていない、純粋なもてなしの一杯だった。カップをソーサーに戻し、カリナはその碧眼を細めて、目の前の美女――自分と瓜二つの髪色を持つ、違いはカリナの毛先が金髪くらいの、謎の存在を見据えた。「……単刀直入に聞く。あなたは一体、何者なんだ? なぜ私のことを知っている? そして……先ほど言っていた『女神』というのは、本当なのか?」 矢継ぎ早に繰り出された質問に、アリアはカップを口元で傾け、ふふっと楽しげに笑った。「せっかちですねぇ。でも、答えは先ほど言った通りですよ。――女神です」 またしても、はぐらかすような返答。だが、その言葉には嘘の匂いがしない。それどころか、彼女が纏う空気そのものが、人知を超えた何かであることを雄弁に物語っていた。 カリナは深呼吸をし、ずっと胸の内に秘めていた「確信」をぶつけることにした。「……私は以前、ある場所で『真実』の一端に触れた」「ほう?」「『死者の迷宮』の最深部……そこにあった祭壇の鏡だ。私はそこで、現実世界で死に別れたはずの幼馴染――『彩』と再会した」 カリナの脳裏に、あの時の情景が蘇る。鏡の向こうで微笑んでいた、懐かしくも切ない少女の姿。「彼女の髪は、生前のような赤茶色ではなく、透き通るような銀髪に変わっていた。そして彼女は言ったんだ。『女神様に、別の世界に転生させてもらった』と」 アリアの手が、わずかに止まる。「さらに彼女はこうも言っていた。『その女神様が、今、あなたのことを探している』と。……今の私がいるこの世界では因果が正しく回っていないため、私がトラブルに巻き込まれやすくなっているとも教えてくれた」 カリナは畳み掛けるように言葉を続ける。「それだけじゃない。先日、私の
謁見の間には、レオン王の宣言が重々しく響き渡っていた。 一週間後に開催される剣術大会。それは、人類の脅威に対抗するための精鋭を選抜する重要な儀式でもある。しかし、カリナには一つ、どうしても確認しておかなければならない懸念があった。「陛下。剣術大会ということは……まさかとは思いますが、真剣を使う訳ではないのですよね?」 冒険者ギルドの訓練や一般的な模擬戦では、刃引きをした剣や木剣を使うのが通例だ。Aランクの実力者同士が真剣でぶつかり合えば、手加減をしたとしても事故は避けられない。だが、レオン王は鷲のような鋭い瞳でカリナを見据え、短く答えた。「いや、真剣での立ち合いになる」「なっ……真剣、ですか?」 カリナが眉をひそめると、隣に控えていたカグラも扇子で口元を覆い、懸念を示した。「陛下。いくら腕に覚えのある者同士とはいえ、真剣勝負となれば、下手をしたら死傷者が出る恐れがございますわ。未来の戦力を選抜する場で、有望な若者が命を落としては本末転倒では?」「うむ、そなたらの言い分はもっともだ。だが、案ずることはない。それについては、ここにいるアリア殿が、特別な『魔道具』を準備してくれているのだよ」 王の言葉を受け、アリアが一歩前に進み出た。彼女が何もない空中に手をかざすと、誰も見たことがない未知の魔法陣が展開され、そこに闘技場の様子を模した鮮明な立体映像が投影された。「ご心配には及びませんよ。私が開発した、この『身代わりの水晶』があれば、誰も死ぬことはありません」「身代わりの水晶……? ずいぶんと大きいな」 カリナが驚くのも無理はない。投影された映像では、闘技場の舞台の両端に、優に人ひとり分の大きさがある巨大な水晶が設置されていたからだ。「はい。大会には大観衆が押し寄せますから、遠くの客席からでも状態が視認できるよう、このサイズに設計しました」 アリアはカリナ達に向き直り、落ち着いた丁寧な口調で説明を始めた。「これは対象の魔力と生命力をリンクさせる特殊な魔道具なんです。勝負の前に、この水晶に自分の魔力を流して記憶させておけば、戦闘で受けたダメージは全てこの水晶が肩代わりしてくれますよ」 アリアはニッコリと微笑み、続ける。「例えば、腕を斬られたとしましょう。その瞬間、痛みと衝撃は走りますが、肉体には傷一つつきません。代わりに、舞台の端に設
アレキサンドの朝は、澄み切った青空と共に始まった。 石畳を踏みしめる音を響かせながら、カリナ達一行は街の北端に位置する小高い丘を目指す。そこに鎮座するのは、この国の象徴である巨大な王城だ。 近づくにつれ、その威容が露わになる。 エデンの城が近代的な白亜の優美さを誇るなら、この城はまさに「鉄壁」。切り出された巨大な灰色の岩石を積み上げて作られた城壁は、無骨ながらも圧倒的な重厚感を放っている。 城壁には、エデンの「黄金の獅子」とは異なる、この国の国章――『交差する二振りの剣と鉄壁の盾』を描いた旗が翻っている。装飾は最小限に抑えられ、実用性を重視した矢狭間が並ぶ様は、ここが武を尊ぶ騎士の国であることを無言のうちに物語っていた。「へぇ、近くで見ると迫力が違うわね。飾り気はないけれど、そこがいいわ」 カグラが城壁を見上げ、感心したように扇子を揺らす。やがて、巨大な鉄格子の城門の前に到着した。「止まれ! 何用か!」 屈強な鎧に身を包んだ門番達が、鋭い眼光と共に槍を交差させる。カリナは一歩前に出ると、懐から先日カシューに託された招待状と、自身のAランク冒険者カードを取り出した。「エデン国王カシュー陛下の使いで参りました、冒険者のカリナです。レオン・アレキサンド国王陛下より、招きを受けております」 続いてカグラも、流れるような所作で自身のカードを提示する。「同じく、エデン筆頭相克術士のカグラよ。同行者として許可を頂いているわ」 門番は招待状の封蝋にある王家の紋章と、二人のカードを確認すると、即座に姿勢を正した。槍を引き、ガシャンと音を立てて踵を揃える。「はっ! 失礼致しました! カリナ様、カグラ様ですね。陛下よりお話は伺っております。どうぞ、中へ!」 重々しい音と共に城門が開かれる。 一歩足を踏み入れると、そこは静謐な空気に包まれていた。城内もまた、質実剛健な造りだった。磨き上げられた石の床、壁には歴代の戦いを描いたタペストリーや、交差した剣と盾の紋章が飾られている。 煌びやかなシャンデリアの代わりに、魔法石を埋め込んだ鉄製の燭台が通路を照らし、すれ違う騎士達は皆、規律正しく黙礼して通り過ぎていく。「エデンとはまた違った緊張感があるにゃ……。おいら、背筋が伸びるにゃ」 ケット・シー隊員が、シルクハットの位置を直
エデンを出発してから数時間。 ガルーダの背に揺られ、適度な休憩を挟みながら空の旅を続けていた一行の視界に、夕闇に染まり始めた壮大な石造りの街並みが見えてきた。「見えてきたぞ。あれが騎士国アレキサンドだ」 カリナが指差す先には、湖畔に広がる堅牢な城塞都市があった。エデンのような近代的な魔導都市とは趣が異なり、質実剛健な石造りの建物が整然と並ぶ、まさに「騎士の国」と呼ぶに相応しい景観だ。 そして街の北側、少し小高い丘の上には、街を見下ろすように巨大な王城が鎮座している。夕日を反射して輝くその威容は、大陸の中心国家としての威厳を放っていた。「へぇ、立派なものね。質実剛健、武骨だけど美しいわ」 カグラが扇子で口元を隠しながら感心する。「到着にゃ! お腹空いたにゃー!」 ケット・シー隊員が身を乗り出す中、カリナはガルーダに指示を出し、城下の南門前にある広場へと降下を開始した。 ズズーンッ……! 巨大な黄金の鳥が舞い降り、風圧と共に着地すると、南門を守っていた衛兵達が槍を構えて大騒ぎになった。「な、なんだあの怪鳥は!? 敵襲か!?」「ま、待て! 背中に人が乗っているぞ!」 騒然とする衛兵達の前に、ガルーダが翼を収め、カリナ達が降り立つ。カリナはガルーダを送還すると、警戒する衛兵達の前へと歩み出た。「怪しいものじゃない。私は冒険者のカリナ。エデンのカシュー国王の使いで、レオン・アレキサンド国王陛下に招かれて来たんだ」「ぼ、冒険者だと……? だが、今の巨大な鳥は……」 衛兵隊長らしき男が困惑していると、カグラが優雅に歩み寄り、艶やかな笑みを浮かべた。「あらあら、驚かせてごめんなさいね。この子は私の妹分で、凄腕の召喚術士なのよ。ほら、これが身分証よ」 カグラに促され、カリナは懐から冒険者の組合カードを提示した。そしてカグラもまた、自身のカードを取り出して提示する。カリナのカードには、燦然と輝く『Aランク』の刻印と、『カリナ』の名が刻まれている。 隊長がカードを受け取り、その名前を確認した瞬間、彼の目が驚愕に見開かれた。「カ、カリナ……? まさか、あの『ザラーの街』を襲った悪魔と魔物の大軍を、たった一人で殲滅したという……あの英雄か!?」 その言葉に、周囲の衛兵達もざわめき立つ。ザラーの街の防衛戦は、アレキサンド国内でも今伝説として語
カシュー達との会談を終え、出発は明日ということが決まった。その場は解散となり、カリナはエデン王城の居住区にある自室へと戻ってきた。 近代的なセキュリティシステムが導入されているエデン王城。カリナは懐からカードキーを取り出し、リーダーにかざす。ピッ、という電子音と共にロックが解除され、重厚な扉が静かにスライドした。「おかえりなさいませ、カリナ様」 部屋に入ると、すぐに柔らかい声が出迎えてくれた。妖精族の側付、ルナフレアだ。彼女はいつものように慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、カリナの上着を受け取るために歩み寄ってくる。「ただいま、ルナフレア。すまないが、また少し忙しくなりそうだ」 カリナが申し訳なさそうに告げると、ルナフレアは小首を傾げた。「何かございましたか?」「ああ。明日からまた、旅に出ることになった。行き先は北の隣国、騎士国アレキサンドだ」 その言葉を聞いた瞬間、ルナフレアの表情が曇る。美しい翠眼に、心配の色が滲んだ。「明日、ですか……? カリナ様、つい昨日まであんなにお苦しみだったのですよ? 初潮が明けたばかりのお体で、またすぐに旅だなんて……」 彼女はカリナの手をそっと包み込む。その手は温かく、カリナの体調を何よりも案じていることが伝わってきた。この一週間、つきっきりで看病してくれた彼女だからこそ、その心配は深い。カリナは安心させるように、握られた手に自分のもう片方の手を重ねた。「心配してくれてありがとう。でも、もう大丈夫だ。お前の献身的な看病のおかげで、体調は万全だよ。痛みも嘘みたいに引いたしな」 カリナは努めて明るく振る舞い、笑顔を見せる。「それに、今回は戦いがメインじゃない。騎士国アレキサンドの国王に会って、友好を深めるのが主な目的だ。あとは……まあ、ちょっとした剣術大会に参加するくらいだ。危険な任務じゃないし、用が済めばすぐに戻るよ。……それに、今回はカグラも一緒だ」「カグラ様も、ご一緒なのですか?」「ああ。彼女がついてきてくれる。だから何かあっても大丈夫だ」 カグラの名前が出た途端、ルナフレアの表情がふっと緩んだ。「そうですか……。カグラ様がご一緒なら、安心ですね。あの方の実力は私もよく存じておりますし、何よりカリナ様をとても大切に思っていらっしゃいますから」 ルナフレアは安堵の息を漏らし、改めてカリナを見つめた。